徳永まさひろ 論考・論策

中学生の防災教育の重要性について

「消防防災」24号(2008年・春季号)
コーナー名:スポットライト
テーマ:城東消防団の先進的な活動について
執筆内容担当:城東消防団第二分団団員 
江東区立第三亀戸中学校PTA会長
徳永雅博


21世紀の日本の政治的課題の一つに、少子高齢化社会を、いかに安全で安心で活力ある社会に構築するかが挙げられています。その解決のために、政府も地方自治体も、出生率を上げるための子供を産み育てる環境整備や、高齢者が安心できるバリアフリーの街づくりを推進するなど、様々な施策が施されていますが、一番大事なことは、この国を、自分自身が住んでいる街を、どうやって安心・安全な街にすることができるのか、どうすれば誇りがもてるか、つまり一人ひとりの心の中に、大切なものを守るという意識をいかに醸成できるかにあると思われます。しかし、一口に安心・安全な街づくりの意識の醸成といっても、ある程度個々人の価値観が出来上がった大人に理解してもらうには、時間的にもなかなか難しいものがあります。私自身も消防団に入団していなかったなら、どこまでそのことを理解できたのか疑わしいところがあります。しかし入団以来、様々な訓練や学習により、消防団がいかに地域に密着した防災機関であり、消防署・自主防災組織との緊密な連携のもと、どれほど地域防災体制の重要な一翼を担っているかが理解できるようになりました。また地域社会が平穏であることの重要性を少しは感じることができました。

私が城東消防団第2分団に入隊したのは平成17年6月1日です。きっかけは仕事の関係で初めて消防団始式に参加して、その凛とした姿勢にボランティア精神の荘厳さを見たからです。また時を同じくして、地域の推薦もあり、平成17年度から江東区立第三亀戸中学校のPTA会長を引き受けることになりました。もともと小中学校のいじめや不登校問題に関心があり、新聞やテレビの報道からだけではなく、学校の現状を中から正確に把握したいと思っていましたので快く引き受けました。その学校は昭和36年に創立され、今日まで地域の町会や商店街に強く支えられ、江東区でも運動や学業面で多くの実績を残してきた学校です。そこでPTA会長になって最初の考えたことは、中学校を支えていただく地域との関係で、子供たちに地域社会が平穏であることの重要性をどうすれば理解してもらえるか、また地域の清掃活動や夏祭りの行事などのほかに地域と共生できる体系的な活動が何かできないかということでした。大人になった段階ではなかなか地域貢献の意識の醸成は難しいですが、中学生の時期にそうした意識を少しでも醸成できれば、大人になっても自然に地域活動に参加してもらえるのではと考えました。中学生は少年から大人になる最初のステップでとても重要な時期です。体の成長とともに精神の成長も、教育環境の良し悪しによって大きく左右されます。そこで中学校生活3年間で、体験的にボランティア精神を育み、発展段階的に成長してもらうことができる企画はないかを考えました。
そこで考えたのが、中学生活3年間に、防災訓練を発展段階的に取り組むことによって中学生の防災アスリートの育成ができないかということでした。中学生活には、特別活動として職業体験や中学生だけの街をきれいにする運動などもあります。また、各学年で総合的な学習の時間に、町の地域研究や歴史研究をするなど、地域との接点を持つことに時間をとっていることも事実ですが、地域と一体となって活動することはあまり見られません。しかし、中学校と町会と消防団が一緒になって、さらには行政にも参加していただいて合同防災訓練ができれば、地域の一員としての自覚と責任感を養い、郷土を愛する精神と健全なボランティア精神を醸成できるのではないかと考えました。中学3年間を1セットして、消火、救助、救急(3年生は救命講習を受講)の基礎教育を実施し、防火防災の基本的知識、技術を習得してもらい、卒業する時には、自らの身を守り他人を救うことのできる中学生を育成することが、いつ起きてもおかしくない震災や大規模災害の時のためにもとても重要になってきます。特に高齢化が進む中、大人の男性が不在となる昼間時間帯に地震等による被害が発生した場合、初期消火、救助などで中学生は貴重な戦力として期待できます。そこで、私がPTA会長を務める第三亀戸中学校では、平成17年度から19年度まですでに3年間、地元の城東消防署と学校と地域との協議の上、町会の災害協力隊のメンバーにも参加して頂き、秋に合同防災訓練を行っています。

平成17年の最初の訓練を企画することはなかなか大変でした。学校と地域が一体となって行う合同防災訓練は経験が全くなく、まずは学校側に理解していただくことから始まりました。次年度の学校の年間行事は年度の終りにすべて決まっています。それでなくても新学習指導要領の中で学習時間が削られ、先生の負担が増える中で、新たに学校外の町会や消防署と一緒になって防災訓練を行うことは大きな負担になります。また一方で、地域の各町会においても、新しい行事を増やすことは役員の負担が増え、簡単に理解していただくわけにはいきません。その中で当時の学校長とPTA会長としての私との間で、合同防災訓練の意義を語り合い、消防署とも連携を密にする中で、合同防災訓練の内容を詰めていきました。まず課題の整理をしました。

  1. 学校行事が決めっているなか時期をいつにするか。
  2. 各町会は何人の方にどこのエリアの町会まで参加していただくか。
  3. PTAの応援をどこまでお願いするか。
  4. 江東区との連携はどのようにするか。
  5. 地域と連携した訓練の内容をどうするか。
  6. 生徒の訓練メニューは何をどうするか。
  7. 訓練の時間帯はどこでどのくらいが適切か。

など様々な課題を整理して、ひとつひとつ解決していきました。時期は避難訓練の予定の時間を利用して平成17年11月29日(火)の午前中、また地域との連携については、1か月ほど前に各町会の町会長と防災担当役員に学校に集まって頂き当日の訓練内容を打ち合わせしました。大きな問題は540人いる生徒全員にどのようなローテーションで訓練メニューをこなしていくか、はたして午前中だけの時間で足りるのかという疑問が残りましたが、区役所との炊き出し訓練の打ち合わせも順調に終わり、全体の訓練内容を(資料1)のとおり組み上げました。ここまでの重要なポイントはやはり学校長のリーダーシップと地域の理解です。教職員の理解を得て地域との話し合いを順調に進めるには、消防署からどんなに応援していただいても校長の強い信念と地域の理解がないと前に進まないと思われます。

(資料1)
合同防災訓練実施要綱

  1. 【1.日時】平成17年11月29日(火) 1時間目~4時間目(5時間目は通常授業)

  2. 【2.内容及び目的】

・大規模大震災を想定し、生徒の避難を迅速かつ安全に行えるようにする。
・避難後の生徒たちが防災活動・ボランティア活動できるよう、応急救護訓練・消火訓練・救助救出訓練を実施する。
・大規模大震災を想定し、地域住民の方々の本校への避難を迅速かつ的確に行えるようにする。
・地域住民受け入れのための避難所設営訓練を実施する。
・近隣8町会の方々と、避難時の校舎内の施設利用調整を行う。
・江東区防災課による、仮設トイレの設営訓練と非常食の試食(近隣8町会)


【3.訓練参加者及び参加団体】

・三亀中(主催)、城東消防署、近隣8町会、PTA会長及び保護者
消防団、江東区防災課


【4.合同訓練の流れ】

〔生徒・教員・城消・消防団〕        〔近隣8町会・PTA・防災課〕
8:45~9:20
教室にて防災訓練の説明
9:20~
担任は各教室から職員室や移動
9:25~                         9:30~
生徒は校庭に避難開始(教員の引率はなし)  町会役員・PTAが本校に避難開始
9:35~
校長先生より 城東消防署より挨拶
9:45~11:30            9:45~
《防災訓練開始》            ・避難所設置訓練
・応急救護訓練(体育館)       ・学校施設利用の確認の校舎内巡回
・消火訓練(校庭)           ・生徒の防災訓練見学
・救助救出訓練(校庭)        ・仮設トイレ設営と避難食の試食
11:30~
PTA会長より 城東消防署より 生徒会より感謝の言葉
11:45~12:35                11:45~
城東消防署からのアンケート記入       意見交換会の実施
簡単な感想文                   (参加者・参加団体の代表)


訓練当日は、まず地域の町会長や災害協力隊の方々が集まり、避難所を想定した炊き出し訓練や学校施設の使用制限を確認しました。同時に消防署から指示された城東消防団第2分団の皆さんが可搬ポンプ車を従えて学校に到着して、学校と消防署と訓練内容を打ち合わせ、消化、救急、救助の訓練場所の設営に取り掛って頂きました。準備ができたころ、生徒が教室から一斉に校庭に避難して、校長挨拶、消防署挨拶が終わり、次に消防団と地域の方々の紹介を行いました。その後学年ごとに各訓練場所に分かれ訓練が開始されました。ここでの活躍はやはり消防団員の働きでした。教職員はだれも指導できず、消防署の職員も限られた中で、平日にも関わらず応援に来ていただいた消防団の皆さんが、日頃からのポンプ躁法や救助・救急訓練の成果を発揮していただき、各セクションで陣頭指揮をとって頂きました。訓練終了後全体会議で反省会をやりました。そこでの主な意見は次のとおりです。

  1. 半日で540人の生徒が全員3つの訓練を受けることは無理がある。
  2. 地域の災害協力隊との接点が少なかった。
  3. 生徒に緊張感があまりなく、訓練の内容もしっかり把握できていなかった。
  4. 生徒の訓練と地域とPTAの訓練内容が違うことはあまりよくない。
  5. 教職員にも緊張感がなく、ヘルメットもしていなかった
  6. せっかく各町会から見えているので町会に在住する生徒との連携が欲しかった。


平成18年度の合同防災訓練は、昨年度の反省から、何点か変更しました。

  1. 避難所設営訓練と校内巡回をやめ地域の方々には生徒と同じ訓練に参加して頂きました。
  2. 終了後の参加団体の意見交換会から集団下校班の生徒と近隣8町会の方々との顔合わせ意見交換会に変更しました。
  3. 各学年がすべての訓練を行うのではなく各学年の訓練内容を一つにしました。
  4. 1学年(救助救出訓練)・・・倒壊建物での救助救出や傷病者搬送、ロープ結束等
    60人~70人×3グループに班分け
    2学年(応急救護訓練)・・・止血法、AED,トリアーゼ、三角巾、心肺蘇生法等
    城東消防署の指示に従い班分け
    3学年(消火訓練)・・・・・屋内消火栓を使った放水、消化器等
    城東消防署の指示に従い班分け
  5. 全体訓練が終了後城東消防署からのビデオ視聴を取り入れました。


18年度は、訓練内容を各学年1つにしたことで内容が充実し、生徒の反応も良好でした。また、地域の方々が生徒と一緒に訓練することにより親近感が生まれ、終了後の顔合わせ会も、普段顔は知っていてもどこの人かわからなかった状態から言葉を交わせるようになるなど、非常に有意義なものになりました。また、消防署では消火訓練を先にやるべきとの説明がありましたが、中学生は1年生と3年生では体力的に差が大きく、消火訓練を3年生に持ってきたことは成功でした。また19年度は、消防署のビデオ視聴を訓練の最初に取り入れ、阪神淡路大震災の時の深刻な状況を理解してもらい訓練に入りました。

以上のように江東区立第三亀戸中学校では、3年間の中学生活の中で、防火防災の基本知識・技術を習得してもらい、地域に帰っても初期消火や救助・救護などで貴重な戦力として活躍してくれることを期待して、合同防災訓練を今後も続けていく予定です。一方でこの訓練の意味は、命の大切さ、尊さを理解してもらい、地域と一緒になって防火防災活動をすることによって、郷土を愛する、街を守る精神を培ってもらい、健全なボランティア精神が育まれることを期待するものであります。また平成20年度からは、第三亀戸中学校では子供たちのボランティア精神の育成のために、3年間利用できるボランティア手帳も発行することになりました。今後の子供たちの成長を楽しみにしています。

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