ウクライナ危機と世界秩序
ロシアのウクライナ侵攻から1か月がたった。この間、ロシアのウクライナに対する非人道的な都市攻撃は、多くの女性や子供・高齢者の生活を苦しめ、穏やかな日常を一瞬にして奪っている。ロシアがたとえどんな大義名分を掲げても、人命を奪う戦争行為は許されるものではない。そこでNATOは、1949年の創設以来初めての、有事対処を目的にした首脳会議を招集した。イェンス・ストルテンベルグNATO事務総長は、この会議を「我々が第2次世界大戦以来、最大の安全保障上の脅威に直面する中で開かれる特別な首脳会議」と位置付けている。同時に先進7か国(G7)と欧州連合(EU)の緊急首脳会議も立て続けに開催され、米欧指導者は3つの枠組みを飛び回る異例の状況が続いた。しかし結果として、どうすればロシアの暴挙を食い止めることができるのか。残念ながら人の生存権を踏みにじった人道危機を一刻も早く食い止め、戦争を終結させる具体的な道筋を示すことはできなかった。ウクライナ政府は、飛行禁止区域を設定してロシア軍機の侵入を抑止するようNATOに求めてきたが、ロシア軍との直接交戦を恐れて踏み切れず、ロシア軍の化学兵器使用の懸念にも未然に防ぐ手立てを持たないという。首脳会議では、化学兵器や生物兵器、放射性物質や核の脅威から身を守るための装備品がウクライナ軍に供与する方針が決まっただけであり、未然に防ぐすべを持っていないという。それでは尊い人命を救うことはできない。確かに米欧諸国の対ロシア経済制裁は、ある程度効果があるとも言われるが、今日までプーチンが資源外交の中で勝ち得た経時的利得の勝算は、経済制裁だけでは時間が掛かりすぎる。毎日命の危険にさらされているウクライナの国民のことを考えた場合、一刻の猶予もないのである。今回のウクライナ危機は、大きく世界の政治経済的協調体制や地政学的安全保障の考え方を一変させている。グローバリズムの限界とナショナリズムの復権の脅威は、世界平和を推進するための世界秩序の新たな戦略を、一刻も早く構築していかなければならないという警告を鳴らしている。人類は今こそ歴史に学ばなければならない。二度の世界大戦の中で、国家は、戦争という人間の最も残虐な大量殺戮行為の主役を務めてきた歴史を振り返り、二度と同じ過ちを繰り返してはならないという強い信念を思いだすべきである。そして改めて人間の愛や慈悲の心を蘇らせなければ、地球の存続が極めて危ない状況であることに気づく時である。そのためにも世界の民衆の力を結集してこの危機を乗り越え、人類の知恵を結集して新たな国際秩序の構築を急ぐべき時である。